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千葉地方裁判所 平成8年(行ウ)14号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告の平成元年六月一日から平成二年五月三一日までの事業年度の法人税につき、被告が平成五年七月三〇日付けでした更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、所得金額一億一七七一万九六三四円として計算した額を超える部分を取り消す。

二  原告の平成二年六月一日から平成三年五月三一日までの事業年度の法人税につき、被告が平成五年七月三〇日付けでした更正及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、平成六年一月七日付けの再更正及び賦課変更処分で取り消された後のもの)のうち、所得金額二一八六万三五六七円として計算した額を超える部分を取り消す。

三  原告の平成三年六月一日から平成四年五月三一日までの事業年度の法人税につき、被告が平成五年七月三〇日付けでした更正のうち、所得欠損金額三九九五万九四五六円として計算した額を超える部分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、映画フィルムの所有権の取得及びその賃貸等を目的として結成された組合に加入し、右組合を通じて映画フィルム購入のための出資及び購入代金の借入れをしたとする原告が、当該映画フィルムの所有権を減価償却資産として、また、映画フィルムの購入代金に充てた借入金についての利息の支払を支払利息として、それぞれ損金に算入の上、法人税の申告を行ったところ、被告から、右組合による映画フィルムの購入に関する契約は仮装であり、経済的実質を伴わないものであるなどとして、右損金への算入を否認するなどの更正及び過少申告加算税の賦課決定を受けたため、被告に対し、右処分は、減価償却費の損金算入、借入金及び支払利息の計上等の課税要件事実に係る事実の評価を誤り、また、法律上の根拠を欠く違法なものであるなどと主張して、その取消しを求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)

1  当事者

原告は、ゴルフ場の経営、設計及び受託業務、ゴルフ練習場の経営、設計及び施工、不動産の売買及び仲介並びに映画フィルム及び航空機のリース等を目的とする会社であり、被告は、原告の所轄税務署長である。

2  本件取引について

(一) メリルリンチによる映画投資事業の勧誘

(1) 原告は、平成二年三月ころ、メリルリンチ・ファイナンシャル・サービス(以下「メリルリンチ」という。)の仲介により、Merrill Lynch Capital Marketsの作成した「Halley Film Enterprises」と題する説明書(以下「本件説明書」という。)に基づき、HalleyFilm Enterprisesと称する組合(以下「ハレー」という。)に参加して、以下に述べるような映画投資事業を行うこと(以下「本件取引」という。)を勧誘された。

(2) ハレーの投資対象とした映画フィルムは、Columbia Pictures Industries, Inc.(以下「CPII」という。)の制作に係る、「POSTCARDS FROM THE EDGE」(邦題「ハリウッドに口づけ」)及び「FLATLINERS」(邦題「フラットライナーズ」)と題する映画フィルム(版権を含むすべての権利、権原が含まれるが、その改作、続編及び音楽出版権に関する権利は含まれない。以下、これらを「本件映画フィルム」という。)である。

(3) 本件取引は、日本の投資家を集めてハレーという投資事業組合を結成し、出資組合員の自己資金及び在日外国銀行からの借入金により、アメリカ合衆国において長編映画の制作及び配給並びに映画関連事業などを行うThe Genesis Project, Inc.(以下「ジェネシス」という。)から本件フィルムを購入し(以下「本件売買契約」という。)、オランダの映画配給会社であり、一ないし複数の映画配給会社を使って世界中に映画を配給する事業を行うInternational Film Distributors,B.V.(以下「IFD」という。)との間で映画の賃貸・配給契約を締結し、IFDが第二次配給会社(以下「サブ配給会社」という。)であるCPIIを使って全世界に配給し、さらに、付随的な事業からも収入が見込めるというものである。

(二) 本件取引に関する契約内容(乙一ないし五、二〇ないし二四の各1、2、弁論の全趣旨)

(1) 本件売買契約

ハレーがジェネシスから購入する本件映画フィルムの代金は七七億三一四六万二五〇〇円(五〇四五万USドル相当円)であり、その約七五パーセントは償還期間七年間の借入金で賄い、残りの約二五パーセントはハレーの各組合員の出資金から充当する。右借入元利金(以下「本件借入金」という。)及びその借入に伴い発生した費用、税金等も、投資家である右組合員が連帯して支払う。また、IFDがハレーに対し後記(4)オの配給料の支払を行わず、さらに、Hollandsche Bank-Unie N.V.(以下「HBU銀行」という。)の連帯保証が実行されない場合は、各投資家が連帯して本件借入金を返済しなければならない。

(2) ハレーの出資金及び借入金

ハレーが本件映画フィルムの購入資金として自ら出資する金額(以下「本件出資金」という。)は、二二億九八七五万円(一五〇〇万USドル相当円)であり、これを一五口に分割して、一口当たりの出資金を一億五三二五万円(一〇〇万USドル相当円)とし、各組合員は一口以上を出資する。

右のほか、ハレーの各組合員は、映画購入資金として、次の条件で借入れをし(以下、右借入れに関する契約を「本件融資契約」という。)、これを本件映画フィルムの購入代金に充てる。

ア 貸主 オランダ銀行(東京支店であり、以下、特に断らない限り、「オランダ銀行」とは同支店を指す。)

イ 借主 ハレーの各組合員

ウ 借入元本 五七億四六八七万五〇〇〇円(三七五〇万USドル相当円)

エ 金利 年率七・二パーセント、月複利、一年を三六〇日として計算(以下「月複利七・二パーセント」という。)

オ 期間 七年間

カ 返済 返済については、後記(4)オで定められる本件映画フィルムの配給料が充当される。ただし、この配給料により本件借入金すべての返済が賄われるとは限らない。本件借入金の返済は、各投資家が連帯して行う。

キ 担保 後記(4)の賃貸・配給契約においてハレーが受け取るすべての配給料及びHBU銀行との保証契約に基づくすべての権利

(3) ハレーの運営

ハレーの運営は、各組合員の要請に基づき、ML Film Entertainment International Inc.(以下「MLFE」という。)が、七年の賃貸期間中、業務執行者として運営・管理に当たる。この指名を取り消すことはできない。ハレーは、右管理者に対し、管理料等を支払う。

ハレーの利益又は損失は、各組合員の出資比率に応じ配分する。

(4) 映画の賃貸及び配給

ハレーは、次の条件で、本件映画フィルムの賃貸及び配給を行う(以下、これに関する契約を「本件配給契約」という。)。

ア 賃貸人 ハレー

イ 賃借人 IFD

ウ 期間 七年間

エ 契約形態 映画の賃貸及び配給契約

オ 配給料 IFDは、本件映画フィルムの賃貸及び配給契約の期間中、ハレーに対し、経費充当分として一定の金額を支払うほか、本件映画フィルムの配給収入に応じて、前払金、グロス支払額、ネット支払額などのフィックスト支払額(以下「本件配給料」という。)を支払う。その具体的内容は後記(5)のとおりである。

カ オプション IFDは、一定の場合に、対価を支払って、ハレーから本件映画フィルムを購入する権利(以下「クラスAオプション」という。)を有し、また、ハレーの各組合員から、そのハレーに対する持分(本件映画フィルムに関する権利等)を購入する権利(以下「クラスBオプション」という。)を有する(以下、これらを後記延長オプションと合わせて「本件オプション権」と総称し、これらに関する契約を「本件オプション契約」という。)。本件オプション権の具体的内容は後記(6)のとおりである。

キ 担保 本件オプション契約と、本件配給契約に基づく義務の遂行を保証するため、ハレーはIFDに対し、本件映画フィルムに担保権を設定する。

ク 再配給権 IFDが本件オプション権を実行可能な期間内にこれを実行しない場合には、ハレーは、IFDに対し、本件映画フィルムの賃貸借契約を新たに七年間更新する権利を有する(以下「延長オプション」という。)。この場合、IFDは、ハレーに対し、一定の金額支払う。

なお、ハレーが本件配給契約の期間経過後に延長オプションを実行しない場合には直ちに、また、これを実行した場合には再配給期間終了時に、すべての配給権が再びハレーに返却され、本件映画フィルムの処分はハレーに委ねられる。

ケ 実行日 平成二年三月一九日

(5) 本件配給料の具体的内容

IFDは、ハレーに対し、本件配給契約に基づき、次のアないしオの合計額である本件配給料を支払う。

ア 前払金(Advance)

前払金は、本件映画フィルムに関し、本件配給契約に規定するネット支払額(Net Payment Amounts)の前払いとして、本件配給契約締結の日から各映画の封切りの日までの間、一か月当たり一二〇万円として支払われるものである。

イ グロス支払額(Gross Payment Amounts)

グロス支払額は、本件映画フィルムに関し、上映者ライセンス料及びリース料等並びにビデオ売上げ等の一定割合の合計額(Gross Receipts)から税金、諸費用等を控除したものの一〇パーセントに該当する金額であり、年一回支払われる。

ウ ネット支払額(Net Payment Amounts)

ネット支払額は、本件映画フィルムに関し、上映者ライセンス料及びリース料等並びにビデオ売上げ等の一定割合の合計額(Gross Receipts)から配給費用等を控除したもの(以下「調整純収益」という。)におけるハレーの取り分から、グロス支払額及び前払金の合計額を差し引いて残額がある場合のその残額である。調整純収益のハレーの取り分は、調整純収益の総額が、損益分岐点と同額までは調整純収益の一〇〇パーセント、損益分岐点を超える場合は調整純収益の五〇パーセントとされ、年一回支払われる。

損益分岐点は、本件映画フィルムのそれぞれについて、次のとおりである。

映画の題名

損益分岐点

ハリウッドに口づけ

四一億七二二三万一二五〇円

フラットライナーズ

三五億五九二三万一二五〇円

エ 最低保証額(Minimum Guarantee Amount)

最低保証額は、ネット支払額の合計の最低額を保証するものであり、本件配給契約の最初の期間の七会計期間目の調整純収益についての計算書の提出を要求される日(以下「決済日」という。)において支払われ、その金額は八七億二五五〇万九一三一円である。

オ 保証支払額(Net Guarantee Payment)

保証支払額とは、決済日までにIFDからハレーに対し支払われた次の①ないし③の合計額が、最低保証額に満たない場合のその差額である。

① 決済日以前においてIFDが支払った前払金

② 決済日以前においてIFDが支払ったネット支払額

③ 右①及び②の各金額に対し、右各金額に支払日から決済日までの期間において、月複利七・ニパーセントで計算した利息の合計額

(6) 本件オプション権の具体的内容

本件オプション契約によりIFDに認められる本件オプション権の内容は次のとおりである。

ア クラスAオプション

IFDは、ハレーに対し、①契約日から七年後までの期間(以下「第一オプション期間」という。)中であれば、IFDの合理的な判断により、IFDの能力を危うくする何らかの事実、環境等が生じたと認めたときはいつの時点でも、また、②本件オプション契約締結後六年後の日から、IFDがハレーよりオプション期間開始の通知を実際に受領した日の一年後の日までの期間(以下「第二オプション期間」という。)中であれば理由のいかんを問わずいつでも、クラスAオプションを行使することができる。

IFDがクラスAオプションを行使したときは、その発効日において、本件映画フィルムに関するすべての権利等は、何らの契約書等の交付その他の行為を要することなく、完全な状態で、ハレーからIFDに自動的かつ不可逆的に移転、譲渡され、本件配給契約は自動的に終了する。

なお、IFDがクラスAオプションを行使した場合、IFDはハレーに対し、当初の配給期間(本件配給契約の実行日から七年間)の終了日から九〇日以内に、最低でも固定支払金額七億七三一四万六二五〇円(以下「固定支払額」という。)を支払わなければならない。

イ クラスBオプシヨン

IFDは、ハレーの各組合員に対し、前記アと同一の要件の下で、第一オプション期間及び第二オプション期間中のいつの時点でもクラスBオプションを行使することができ、同オプションの行使によって、ハレーの各組合員がハレーに対して有する持分(本件映画フィルムに対する権利等)は、何らの契約書等の交付その他の行為を要することなく、完全な状態で自動的かつ不可逆的にIFDに移転、譲渡される。

この場合、ハレーに本件映画フィルムの所有権は形式上残されたままになるが、IFDは、クラスBオプションを行使された当該組合員に対し、各組合員の権利等の取得価格として、最低でも固定支払額に当該組合員のハレーに対する出資比率を乗じた金額を支払わなければならず、各組合員にとっては、クラスAオプションが行使された場合と実質的に変わりがない。

ウ 延長オプション

IFDがクラスAオプションを行使しなかった場合、ハレーは、本件配給契約に基づき、同契約を当初の配給期間に加えさらに七年間延長する延長オプションを有する。延長オプションは、本契約締結後六年が経過した日から行使でき、第二オプション期間にIFDがクラスAオプションを行使しないことを条件として、同期間終了によって発効する。

右の延長期間においては、本契約は、当初の配給期間と全く同一の条件で継続するが、IFDからハレーへの金員の支払いについては、前記(5)によらず、以下の金員が支払われる。

① 当初の配給期間終了後九〇日以内に、本件映画フィルムの売買価額の一〇パーセント相当額である七億七三一四万六二五〇円(以下「延長前払金」という。)

② グロス支払額

③ ネット支払額から延長前払金及び保証支払額の合計額を差し引いた額

(7) 投資収益

投資家(ハレーの各組合員)の投資による収益の一番目は、ハレーがIFDから受け取る本件配給料及び本件オプション権を行使した場合の固定支払額等であるが、このうち、前払金、ネット支払額、保証支払額等は、まず前記(2)の銀行借入金の元本及び利息の返済に充当され、借入金返済後に組合員に配分される。七年間の賃貸期間においてハレーが回収する現金の多くの部分はグロス支払額によるが、映画の成否は、予想がつかないだけでなく、移り気な観客に左右されるから、映画の購入や賃貸、配給には大きな危険がつきまとうものであり、映画フィルムの封切り前にハレーが受領すると思われる本件配給料及びその組合員への配分額について予想することは不可能である。

投資収益を構成する二番目は、映画投資に関する日本の税法に起因するものであり、本件映画フィルムを減価償却資産として計上し、また、本件借入金についての利息の支払を損金に算入するなどして、課税の繰延べ、減免を得るというものであるが、課税上の優遇措置が将来組合員になるものに適用されること及び日本の税務当局が課税上の優遇措置を認めることについての保証はなかった。

(三) 本件取引の関連諸契約

本件取引においては、ハレー、ハレーの各組合員、MLFE(ハレーの業務執行者)、オランダ銀行(本件借入金の融資銀行)、ジェネシス(本件映画フィルムの販売会社)、IFD(本件映画フィルムの第一次配給会社)、CPII(本件映画フィルムのサブ配給会社)及びHBU銀行(ハレーに対するIFDの債務の保証人)等との間の具体的な権利義務等を定めた以下の契約が締結されている。なお、これらの契約はいずれも平成二年三月一九日付けで締結されており、また、ハレーの結成に係る契約書以外の契約書は、いずれもすべて英文であり、日本語版は存在しない。

(1) ハレーの結成に係る契約

ア 組合契約(ハレーの結成に関するもの)

イ 組合規約(右アの付属契約)

ウ 管理委託契約(前記(二)(3)の契約)

(2) オランダ銀行からの借入れに係る契約

ア 本件融資契約(前記(二)(2)の契約)

イ 債権譲渡契約(ハレーがIFDに対して有する債権をオランダ銀行に譲渡する契約)

ウ 口座質権設定契約(ハレーがオランダ銀行に有する口座をオランダ銀行へ質入する契約)

(3) ジェネシスからの本件映画フィルムの購入に係る契約

本件売買契約(前記(二)(1)の契約)

(4) IFDに対する配給権付与に係る契約

本件配給契約(前記(二)(4)の契約)

(5) IFDに対する本件映画フィルムに関する権利の購入選択権付与に係る契約

本件オプション契約(前記(二)(4)カの契約)

(6) IFDに対する担保権付与に係る契約(前記(二)(4)キの契約)

(7) HBU銀行の保証に係る契約(本件融資契約の保証に関するもの)

(四) 原告のハレーへの参加

原告は、平成二年三月一九日までに、前記(三)(1)のハレーの結成に係る契約書に記名押印するとともに、ハレーの管理者であるMLFEを通じて、前記

(三) (2)ないし(7)の関連諸契約を締結し(以下、これらを「本件各契約」という。)、また、本件出資金の一口分である一億五三二五万円を、オランダ銀行へ振り込んで支払った。

なお、本件各契約相互の関係等は、別紙本件各契約等の関係概略図のとおりである。

3  本件各更正処分等

(一) 原告は、本件取引により、本件映画フィルムの所有権を取得するとともに、オランダ銀行への借入金が存在するとして、本件映画フィルムの購入代金の減価償却費に相当する額及び同銀行に対する借入金の利息支払分をそれぞれ損金に計上するなどした上で、別表一ないし三の「確定申告」欄記載のとおり、平成二年ないし四年の事業年度(前年六月一日から当年五月三一日まで。以下「平成二年度」などといい、右各事業年度を総称して「本件各事業年度」という。)の法人税の確定申告をし、また、別表三の「修正申告」欄記載のとおり、平成四年度の法人税の修正申告をした。

(二) これに対し、被告は、前記(一)の申告ないし修正申告額のうち、主として、本件映画フィルムを減価償却して損金に算入した部分及び本件融資契約の利息の支払いを損金に算入した部分等について、本件取引は実体を欠く仮装のものであるなどとして、原告の右各確定申告ないし修正申告に対し、別表一ないし三の「更正・賦課決定」欄記載のとおり、原告の本件各事業年度の所得金額及び法人税額の更正及び加算税の賦課決定(平成二年度分及び平成三年度分)並びに欠損金額及び法人税額の更正(平成四年度分)を行った。

(三) 原告は、右各処分を不服として、平成五年九月二一日付けで、被告に対し、平成二年度分の重加算税額を除き、別表一ないし三の「異議申立て」欄記載のとおり、異議申立てを行った。

なお、右異議申立ては、前記(二)の本件映画フィルムの減価償却費及び支払利息の損金算入を否認した部分についての不服を理由とするものであり、原告は本件取引に関するもの以外の従業員給与の損金算入の否認等については異議申立ての対象としていない。

(四) 被告は、平成六年一月七日付けで、別表二の「再更正・変更決定」欄記載のとおり、法人税額及び過少申告加算税額の再更正及び賦課変更決定をした。

(五) 被告は、平成六年一月一四日付けで、前記(三)の各異議申立てを棄却するとの決定をした。

(六) 原告は、右の決定を不服として、平成六年二月九日付けで東京国税不服審判所長に対し、平成三年度分の重加算税額を除き、別表一ないし三の「審査請求」欄記載のとおり、審査請求を行った。

なお右審査請求の不服理由についても前記(三)と同様である。

(七) 東京国税不服審判所長は、平成七年一二月二六日付けで、原告の右審査請求を棄却するとの裁決をした。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

本件の争点は、本件取引について、本件映画フィルムの減価償却費及び支払利息の損金算入を否認するなどした前記一3(二)の各更正及び賦課決定(前記一3(四)で一部取り消された後のもの、以下「本件各更正処分等」という。)が適法か否かであるが、これに関する当事者の主張はおおむね以下のとおりである。

(被告の主張)

1 本件取引について

本件取引の目的は、形式的には、本件映画フィルムを購入し、これを世界中で、すべての媒体を通じて商業的に利用することであり、このため、ハレーは、本件取引の実行日である平成二年三月一九日又はその直後に、本件映画フィルムを購入する契約、本件映画フィルムについての配給者を任命する契約及びその他の関連諸契約をそれぞれ締結し、右事業を遂行するため、オランダ銀行と本件融資契約を締結して五七億四六八七万五〇〇〇円(三七五〇万USドル相当円貨額)の融資を受け、本件映画フィルムの購入のため、七七億三一四六万二五〇〇円(五〇四五万USドル相当円貨額)の支払をなすこととされている。

しかし、租税法の適用に当たっては、納税者が選択した法律行為の外観ないし形式に拘束されることなく、その法律行為によって当事者が真に企図した法的実質ないし実体(社会的・経済的意図ないし目的)を探究し、私法上の法律行為の実質に立ち入って法律行為の解釈(契約解釈)ないし課税要件事実の認定を行い、その結果、その法律行為の外観ないし形式と実質ないし実体が異なると認められる場合には、その取引の実質ないし実体に則した課税がなされるべきであるところ、本件取引は、形式上は前記のような形態をとってはいるものの、以下に述べるとおり、本件融資契約に係る本件借入金の現実的な移動はなく、また、本件映画フィルムの権利についても現実的な移動はないのであり、本件取引の実質は、本件映画フィルムを金融商品とした投資契約にほかならない。

2 本件取引の実質

(一) 本件金員の現実的な移動がないこと

(1) 本件取引に係る金員について

本件配給契約によりハレーが収受することとなる金員には、前払金、グロス支払額、ネット支払額及び保証支払額等があり、また、本件配給契約の七年間の当初契約期間終了時にハレーが収受する可能性がある金員には、固定支払額又は延長前払金がある。

そして、本件配給契約によれば、ハレーは、決済日までに、IFDから少なくとも最低保証額(八七億二五五〇万九一三一円)の金員を受領する権利を有することになる。また、本件配給契約及び本件オプション契約によれば、ハレーは、右期間終了時までにクラスAオプションを行使され又は延長オプションを行使した場合には、固定支払額又は延長前払金として、少なくとも七億七三一四万六二五〇円を受領する権利を有することとなる。

以上のように、ハレーは、本件配給契約締結時において、少なくとも、最低保証額及びオプション行使価格の最低金額である固定支払額又は延長前払金の合計九四億九八六五万五三八一円(以下「最低支払確定額」という。)の支払いを受ける権利を取得している。

右の最低支払確定額は、本件借入金の元本である五七億四六八七万五〇〇〇円(以下「本件金員」という。)を本件融資契約に定める月複利七・二パーセントで七年間返済しなかった場合の七年後の元利合計額である九四億九八七三万六九六一円とほぼ同額となっている。

(2) 本件融資の実行時における金員の流れ

ハレーは、オランダ銀行から本件金員を借り入れ、これを各組合員からの出資金とともに本件映画フィルムの売買代金としてジェネシスに支払うこととされている。そして、本件映画フィルムは、CPIIの制作又は買取りに係る映画であって、ジェネシスは、CPIIからブルバード・フィルムズ・インクを経て、本件映画フィルムを取得したとされていることから、本件金員は、本件映画フィルムの売買代金の一部として、ジェネシス等を通じてCPIIに流れることになる。

そして、CPIIは、本件金員を、IFDとのサブ配給契約によりIFDに支払い、IFDは責任引受契約により本件金員をHBU銀行に預託し、HBU銀行は、本件金員を関連銀行であるオランダ銀行本店に信託し、さらに、同本店は、本件金員を同銀行(東京支店)に融資(本支店取引)することになるのであり、その結果、オランダ銀行がハレー名義の口座に融資した本件金員は、同行に還流することとなるのである。

(3) 本件借入金の返済時における金員の流れ

また、本件融資契約にかかる元利金すなわち本件借入金の返済についても、本件借入金の元利合計額に見合う最低支払確定額に係る金員が、オランダ銀行本店からHBU銀行に信託金の払戻しとして支払われ、右金員がHBU銀行からハレーに支払われ、ハレーがオランダ銀行に本件借入金を返済し、その後、オランダ銀行は、同行本店へ当該金員を返済することになるから、こちらも右金員が当事者間を一巡するものであって、その間に金員の現実的な移動ないし出捐はない。

(二) 本件映画フィルムに係る権利の現実的な移動がないこと

本件においては、原告が出資したとするハレーが本件映画フィルムの所有者であるかのような外形を整えるために様々な契約書等が作成されているが、本件映画フィルムは、いずれもCPIIの制作又は買取りに係るものであるところ、本件各契約書等によれば、本件映画フィルムに係る権利は、以下のとおり、ジェネシス、ハレー及びIFDを経てCPIIに還流している。

(1) ハレーは、以下のとおり、本件映画フィルムの所有者として当然有してしかるべき権利を、すべてIFDに譲渡している。

ア 本件配給契約は取消不能とされており、本件配給契約によりその当初契約期間(本件配給契約成立日である平成二年三月一九日から七年間)においてIFDが取得した権利は、本件配給契約の失効又はIFDの契約不履行等によっても何ら影響を受けず、このような場合、ハレーを救済するための手段は金銭上の損失の回復を求めることだけであるから、IFDは、本件映画フィルムの管理、利用及び収益に関する限り、ハレーとの関係においては完全な権利を取得した。

イ IFDは、権利者であるはずのハレーの何らの了解なしに、本件映画フィルムの題名を選択して公開することができ、また、自由に本件映画フィルムをカット及び編集できるのみならず、本件映画フィルムをすべて廃棄することができることとされている。また、本件映画フィルムの制作がいまだ進行中の場合、ハレーは、本件映画フィルムの化体された有体物をすべて現状のままIFDに引き渡すこととされていることから、本件配給契約を締結した時点で契約の目的物である本件映画フィルム自体が完成していない可能性もあるのみならず、右の場合、IFDにおいて右有体物をカットし、編集する等、知的創造物である映画そのものに改変を加えるという、本来、映画の権利者でなければ許されないはずの、まさに権利の本質的な内容に係る行為までもが許容されている。

ウ さらに、IFDは、本件映画フィルムに関する物件等の保管者(以下「ラボラトリー」という。)を自ら選択し、本件映画フィルムに関するポジティブプリントその他を作成させることができるとされており、本件映画フィルムは、右ラボラトリーからはIFDの指示によってのみ移動又は引渡しができ、IFDの同意なしには、ハレーその他のいかなる者にも引き渡されないとされている。ラボラトリーはIFDの指示のみに従って本件映画フィルムの保管及び処理等をすることとなるから、IFDは、ラボラトリーを通じて本件映画フィルムの完全な利用権原を取得している。

エ IFDは、自己又はハレーの名において、第三者からの著作権侵害等に対する権利の保護に必要な措置を取ることができ、本件映画フィルムに関する重要な権利である著作権について完全な権利者と同等の権利行使ができることとされている。

また、本件映画フィルムの原著作権者はCPIIであるが、平成三年七月一六日付けでジェネシスからハレーの各組合員に対して譲渡の登録がなされたものの、同日付けで直ちにハレーの各組合員からIFDへの譲渡担保を原因とする権利移転の登録がなされており、著作権の登録の上でも、ハレーの各組合員が何らかの処分をする余地がないようになされている。

オ 本件映画フィルムの配給に関しても、IFDには本件映画フィルムの広告等を行うことが認められているが、ハレーは本件各契約等の上では権利者でありながら、また、映画の興行成績によっては利益を受ける可能性があるにもかかわらず、IFDの事前同意なしには、一切広告等はできないこととされている。

カ また、ハレーは、本件映画フィルムに関する権利又は権益を、いかなる者にも、IFDの権利に悪影響を与えるようには売却及び譲渡等をすることができないこととされているのに対し、IFDは、ハレーとの関係においては、サブ配給会社へIFDの地位及び権利の譲渡を行うことにより、本件配給契約上の地位及び権利を自由に第三者に譲渡することができる。

キ IFDは、本件オプション契約により、クラスAオプション及びクラスBオプションを取消不能の権利として保持しており、第一オプション期間においては、ハレーにおいて本件オプション契約の実行によるIFDの本件映画フィルムのすべての権利、権原及び権益の取得を危うくするおそれがあると認められるときにはいつでも、また、第二オプション期間中はいつでも、クラスAオプションを行使して、本件映画フィルムに係るすべての権利を取得することができ、また、ハレーの各組合員において本件オプション契約の実行によるIFDの本件映画フィルムのすべての権利、権原及び権益の取得を危うくするおそれがあると認められる場合、第一オプション期間及び第二オプション期間中のいつの時点においてもクラスBオプションを行使できる。なお、本件各契約によれば、IFDのクラスAオプション又はクラスBオプションの行使により変化するのは、本件映画フィルムの法形式上の所有権及び著作権等に限られ、本件配給契約には何ら影響を及ぼさない。すなわち、IFDによる本件映画フィルムの管理、利用、収益及びハレー等へのIFDの支払債務は、オプションの行使によって何らの変更も受けないこととされているのである。

ク 以上のとおり、本件配給契約の期間中、所有権や著作権等の本件映画フィルムに係る権利は、実質的にIFDに帰属しており、右契約締結時にハレーからIFDに対して本件映画フィルムの譲渡があつた場合と同一の法律的・経済的効果が生じているにもかかわらず、本件各契約においては、ハレーが本件映画フィルムの権利者であるかのような形式がとられているのである。

(2) 本件配給契約の終了後におけるハレーとIFDとの関係

ア 本件配給契約期間中にクラスAオプションが行使された場合

IFDのクラスAオプションの行使により、ハレーは本件映画フィルムに関する一切の権利を譲渡し、本件配給契約は終了することになるにもかかわらず、ハレーは、本件配給契約の当初契約期間中は、あたかも本件配給契約が継続している場合と同様、配給収入を受領していくこととされている。

クラスAオプション価格としては、契約期間終了時における本件映画フィルムの価値にかかわりなく、固定支払額として七億七三一四万六二五〇円の支払が保証されている。

イ 当初契約期間終了後にクラスAオプションが行使された場合

IFDのクラスAオプションの行使により、ハレーは本件映画フィルムに関する一切の権利を譲渡し、本件配給契約は終了することになる。

右アと同様、クラスAオプション価格として、最低でも、固定支払額として七億七三一四万六二五〇円の支払が保証されている。

ウ クラスBオプションが行使された場合

IFDがクラスBオプションを行使した場合、ハレーに本件映画フィルムの所有権は形式上残されたままとなるが、クラスBオプションを行使されたハレーの各組合員にとっては、クラスAオプションが行使された場合と何ら変わりがなく、右ア又はイと同様の状況となる。

エ 延長オプションが行使された場合

本件配給契約に基づく延長オプションが行使された場合、ハレーに本件映画フィルムの所有権は形式上残されたままであるが、固定支払額と同額の延長前払金七億七三一四万六二五〇円がIFDから支払われることとなる。

オ 右のとおり、クラスAオプション又は延長オプションが行使された場合、いずれにしてもIFDは七億七三一四万六二五〇円をハレーに支払うこととなる(当該金銭はハレーとIFDとの間の最終決済のための支払ともいえる。)から、IFDは、クラスAオプションを必然的に行使し、本件映画フィルムの法形式上の所有権及び著作権等も取得することになるのである。

なお、いずれのオプションも行使されず本件配給契約が終了した場合、形式上は本件映画フィルムの管理及び処分権等がハレーに戻ることとなるが、本件各契約には、右管理及び処分権等の返還及びこれに伴う金銭等の手続等について何ら規定がなく、また、本件組合契約及び組合規約にはハレー自ら本件映画フィルムの配給元となることに関する規定はなく、ハレーに本件映画フィルムを自ら管理する意思はなかったといえる。

(3) IFDとCPII間における本件映画フィルムに係る権利の移転について

IFDは、CPIIに対し、本件取引と同一機会になされるサブ配給契約に従って、本件映画フィルムに関連するすべての配給権についての独占的実施権を付与するとともに、サブ配給担保提供契約に従って、本件映画フィルムに関する担保権、本件配給契約に基づくIFDの権利及び本件配給担保提供契約に基づくIFDの権利を付与しているのであって、本件映画フィルムに係る権利のすべてがIFDからCPIIに移転している。

(4) 以上のとおり、本件取引において、本件配給契約には、契約期間中及び契約終了時においてハレーには本件映画フィルムの所有権及び著作権等が帰属していない(すなわち、右契約締結時に本件組合からIFDに対して本件映画フィルムに係る権利の譲渡があった場合と同一の法律的・経済的効果が生じる。)ような権利及び義務の規定が置かれており、ハレーに本件映画フィルムの所有権があるかのような本件配給契約の規定は、法的実体を反映していない。本件映画フィルムに係る権利は、ジェネシス、ハレー及びIFDを経てCPIIに還流しているのであって、本件映画フィルムそのものの移動や使用、収益、処分権の変動を裏付けるに足りる事実はない。結局、本件映画フィルムに係る権利は、本件取引の前後を通じて、一貫してCPIIに帰属していることは明らかである。

(三) 本件取引の目的

以上のとおり、本件各契約においては、その形式と法的実質との間に不一致があるのであるが、その原因は、以下のとおり、本件取引の目的が、CPIIにおいては本件映画フィルムの制作又は買取り及び配給資金を調達することにあり、ハレーに参加した原告においては、その持分に対応する本件映画フィルムに係る減価償却費(以下「本件減価償却費」という。)及び本件借入金に係る支払利息(以下「本件支払利息」という。)を計上することによる租税負担の回避のみにあったことにある。

(1) 本件映画フィルムは、CPIIが制作又は買い取り、CPIIが全世界に配給している。

そして、本件売買契約上、本件映画フィルムの売買代金は七七億三一四六万二五〇〇円とされているが、その約四分の三に相当する五七億四六八七万五〇〇〇円についてはオランダ銀行からの本件借入金元本(本件金員)が充てられており、前記2(一)のとおり、本件借入金は、CPIIの関連会社であると推認されるIFDの責任においてそのほぼ全額の返済がなされているのであるから、結局のところ右の五七億四六八七万五〇〇〇円はCPIIないしIFDが調達したものであり、CPIIないしIFDが本件映画フィルムの売買代金の残り四分の一を自ら調達できるのであれば、CPIIだけで本件映画フィルムの制作又は買取りから配給までを行えばよく、ハレーを右の過程に加える必要は全くないのである。

それにもかかわらず、本件取引のようにハレーを介して本件映画フィルムの配給を行うとの法的形式を選択するに至ったのは、もっぱら本件映画フィルムの売買代金の残り四分の一に相当する資金を調達するという金融目的にでたものにほかならない。

(2) 本来、アメリカ映画業界における投資に対する分配利益の計算では、配給収入から、配給手数料、配給費用及び俳優・監督等への支払等が控除されるため、たとえ映画がヒットしても、投資による利益分配は期待できないものとなっているのであり、かかる条件下においても映画の興行利益に関する配当契約が投資商品としての商品価値ないし魅力を失わないためには、投資家が右利益配当契約においていかに損失を計上しても、それを填補するだけの別個の経済的な利益措置が講じられている必要がある。

そこで、CPIIは、右の資金調達をする上で、相手方たるハレーを誘引するために、上映用映画フィルムに係る法定耐用年数が二年であり、短期に多額の減価償却費等を計上できる日本の税制度を利用しうることに着眼し、ハレーが本件映画フィルムを所有しているかのごとき法的外観を作出したのである。

すなわち、本件映画フィルムに係る権利は、前記2(二)のとおり、本件取引の前後を通じ一貫してCPIIに存しているところ、仮に、右権利が我が国の税法の適用される納税者に帰属するとの外観が作出され、それが認められれば、右納税者において本件減価償却費を計上しうる余地がある。また、前記2(一)のとおり、本件配給契約及び本件融資契約は現実の金員の移動を伴わないところ、仮に、本件借入金が我が国の納税者による本件映画フィルム取得のための資金であるとの外観が作出され、それが認められれば、右納税者において、本件支払利息を計上するとともに、本件借入金の元本相当額を本件映画フィルムの取得価額として組み込むことにより減価償却資産価額を増加させ、より多額の減価償却費を計上し得る余地があるのである。

(3) 右のように、本件取引は、本件映画フィルムの興行利益に関する配当契約から生ずる投資家の損失を補填するための経済的な利益措置として我が国における租税回避に着目し、まさに右租税回避をうたい文句として我が国における出資者を募る目的だけのために、右利益配当契約に本件融資契約及び本件売買契約を組み込み、これを一つの金融商品として出資者を募ったものであるから、CPIIが本件取引に加わった意図が、本件出資金による投資により映画の制作及び配給等に係る営業資金を調達し、映画興行に係るリスクを分散させるところにあることは明らかであり、CPIIないしIFDにおいて、真に本件映画フィルムに係る権利をハレーに帰属させる意思があったとは認め難い。

(4) 他方、本件説明書には、ハレーの各組合員が本件取引から得る損益は、①本件映画フィルムの興業の相対的成功度で決まるハレーの配給料受領金額、②本件取引に関連する課税上の取扱いの二つによって生ずる旨の記載があり、②については、「投資収益を構成する二番目の要素」として、その適用を断言できないとはしながらも、現行税法上、映画フィルムの耐用年数が二年であることを利用することの課税上の効果、すなわち、課税利益の減少・課税の繰延べを示唆している。

そして、本件説明書には、本件取引に関する契約内容は各契約等で詳細に規定されている旨の注意書があるが、原告は、平成二年三月一九日付けでハレーの組合契約、組合規約及び管理委託契約並びに本件映画フィルムの著作権譲渡登録申請及び譲渡担保登録申請に関する委任状に署名したのみで、その他の本件各契約は、本件組合の業務執行者とされているMLFEによって同日付けで署名されている。すなわち、原告は、本件説明書のみによって本件取引の内容を理解し、本件取引への参加を決定したものであって、本件各契約の内容及び実態を詳細に検討、把握することなく、既に完成されている契約関係(何らかの目的を持つスキーム)に参加することの意思表示をしたにすぎない。換言すれば、原告は、投資のみを目的として本件取引に参画したものであると認められる。

(5) また、本件映画フィルムは、ハレーが結成されたと主張されている平成二年三月一九日以前に公開が決定され、ハレーの購入対象として選定されていた作品であり、映画の興行成績に大きな影響を与える実際の配給元についても、本件取引以前に、既に、アメリカ合衆国の大手配給会社であるコロンビア(CPII)に決定していたものであるから、ハレーは本件映画フィルムを独自の判断で選択し、取得したものではなく、かつ、その賃貸先とされている配給会社及びサブ配給会社もハレーが独自に決定したものではない。

(6) したがって、ハレーに参加した原告の目的が、本件減価償却費及び本件支払利息を計上することによる租税負担の回避のみにあったことは明らかである。

実際に、本件取引により原告が損金の額に計上した本件減価償却費は、平成二年度は一億七六二七万七三四四円、平成三年度は二億三一九八万〇九八六円、平成四年度は七三三〇万五九九二円(本件各事業年度の合計四億八一五六万四三二二円)であり、原告がハレーの組合員となるために出捐した金額である一億五三二五万円を大きく上回る。

一方、原告が収受した本件映画フィルムの配給収入は、平成二年度は四八万円、平成三年度は五六万円、平成四年度は五四八六万六〇一三円(本件各事業年度の合計五五九〇万六〇一三円)であり、損金の額に算入した本件減価償却費とは大きな隔たりがある。

このように、本件取引においては、実質とは異なる法形式を利用することにより、課税利益の減少及び課税の繰延べが可能となっているのである。

(四) 本件取引の解釈

以上のとおり、本件取引を全体としてみると、本件融資契約に係る金員は、本件融資契約の実行及び返済のいずれにおいても、関係当事者間を一巡することとなっているとともに、本件映画フィルムに係る権利も関係当事者間を一巡して、還流することとされているのである。

したがって、本件取引においては、金員の移動は現実には全く生じていないのであって、たとえ関係当事者において取引の形式に符合するよう、あたかも金員の移動があったかのような帳簿上の処理が作出されたとしても、取引全体を観察すれば、現実の金員の移動がないのと同様であって、その金員の移動は、形式上のものにすぎないと認めるべきである。また、本件映画フィルムに係る権利の移転についても同様であり、本件映画フィルムに係る権利の移転は単なる形式上のものにすぎず、本件映画フィルムに係る権利は、取引の前後を通じて一貫してサブ配給会社であるCPIIに帰属しているとみるべきである。

さらに、本件取引に本件融資契約及び本件売買契約が組み込まれた理由が、ハレーにおいて本件映画フィルムに係る減価償却費及び本件融資契約に係る支払利息を計上することによる租税負担の回避目的のみにあったことは前記(三)のとおりである。

そうすると、本件取引の実質は、ハレーの組合員とされる投資家が行った出資金を投資額とし、本件映画フィルムに係る興行収入の一部を分配金とする金融取引、すなわち、ハレーがCPIIに対し各組合員の出資金から投資し、これに対してCPIIは本件配給契約及びサブ配給契約等に基づき利益配当を行うことを内容とする利益配当契約(以下「本件利益配当契約」という。)にほかならない。

本件取引の実質が右のようなものである以上、本件取引の全体を観察し、その実質に基づく法律行為の解釈ないし事実認定をすれば、本件取引に参加した当事者は、本件取引の前後を通じて本件金員及び本件映画フィルムに係る権利を実質的に移動ないし移転させる意思はなかったものと認めるのが合理的であるし、また、本件取引の前後を通じて本件融資契約及び本件売買契約の法律効果は全く生じていないと解釈するのが合理的である。

したがって、本件取引のうち本件融資契約及び本件映画フィルムの売買契約に関する部分は法的な実質を伴わない単なる契約書の作成行為にすぎず、本件取引においてハレーが本件映画フィルムを所有しているということはできないし、また、本件融資契約に係る金員の借入れをしているものとすることもできないのであるから、原告において、本件減価償却費及び.本件支払利息の損金算入をすることは認められない。

3 本件各更正処分等の適法性について

(一) 平成二年度の更正等の適法性

(1) 所得金額の計算について

ア 申告所得金額 一億〇一一一万九六三四円

右金額は、原告が平成二年七月三〇日付けで被告に提出した原告の平成二年度の法人税の確定申告書に記載されていた所得の金額である。

イ 減価償却費のうち損金の額に算入されない金額 一億七六二七万七三四四円

右金額は、原告が平成二年度の法人税の確定申告において減価償却費として損金経理した金額のうち、本件減価償却費として計上したものであるが、前記2で述べたとおり、本件映画フィルムの所有権は、ハレーには帰属しないものであるから、本件減価償却費を原告の右事業年度の損金の額に算入することはできない。

ウ 支払利息のうち損金の額に算入されない金額又は受取利息の計上漏れ金額 五五四万一八五九円

右金額は、原告が、平成二年度の法人税の確定申告において支払利息として損金の額に算入した金額のうちの本件支払利息に対応するものであるが、前記2(二)のハレーからIFDへの本件映画フィルムに係る権利の譲渡の結果として、本件借入金の弁済はIFDによって行われることとなるから、本件融資契約に係る債務はIFDによって引き受けられたというべきである。

債務引受けがなされた場合、一般的には、重畳的債務引受けがなされ、旧債務者及び引受人の債務は不真正連帯債務となると解される。

本件においては、ハレーがIFDへの本件映画フィルムに係る権利の譲渡の結果取得したところの、IFDから最低支払確定額の支払を受ける権利は、本件配給契約等が失効した場合であっても存続するから、仮に、ハレーがオランダ銀行に対して本件借入金を返済したとしても、返済額のほぼ全額についてIFDから回収できることとなる。すなわち、ハレーはIFDに対し、右債務引受け後の返済について、求償権を取得するものであり、不真正連帯債務者たるハレーとIFDの内部関係においては、ハレーの本件融資契約に係る負担割合は零である。

したがって、実質的に、本件借入金はすべてIFDに帰属すべき借入金であって、ハレーには、会計取引として計上すべき借入金は存在しないこととなるから、本件支払利息を原告の本事業年度の損金の額に算入することはできない。

また、仮に本件支払利息が原告の本件各事業年度の損金の額に算入されたとしても、前記2(四)のとおり、本件取引は、実質的にはハレーとIFDとの間の金融取引と認められ、本件借入金に係る元利合計金額はIFDから回収することとなるから、ハレーには本件支払利息に相当する額の受取利息が発生することとなる。

エ 従業員給与のうち損金の額に算入されない金額 二六〇万円

右金額は、原告が平成二年度の法人税の確定申告において従業員給与として損金の額に算入した金額のうち、福島県白河市α所在の「ザ・ダイナミックゴルフ倶楽部」のゴルフ場新設のための地元対策費として支出したとする金員であるが、支出先は明らかでなく、また、従業員給与として仮装経理されていたものであるから、損金の額に算入されないものである。

オ 雑損失のうち損金の額に算入されない金額 一四〇〇万円

右金額は、原告が平成二年度の法人税の確定申告において雑損失として損金の額に算入した金額のうち、米国不動産投資手付金四件として支出したとするものであるが、支払先が明らかではないから、損金の額に算入されないものである。

カ 本件配給収入の益金不算入金額 四八万円

右金額は、原告が平成二年度の法人税の確定申告において益金の額に算入した金額のうち、ハレーが本件配給契約に基づき収受したとする配給収入の原告の持分に対応する額(以下「本件配給収入」という。)であるが、本件配給収入のうち、前払金、ネット支払額、支払保証額及び延長前払金からなる部分については、IFDが引き受けた本件借入金債務の返済であるから、原告の本事業年度の益金の額には算入されない。

また、本件配給収入のうちグロス支払額からなる部分については、本件映画フィルムの配当収入についての分配請求権の回収と認められるから、ハレーの本件映画フィルムの配当収入の分配請求権一九億八四五八万七五〇〇円(本件映画フィルムの売買代金七七億三一四六万二五〇〇円から、ハレーのオランダ銀行からの借入金五七億四六八七万五〇〇〇円を差し引いた額)に係る原告持分(一五分の一)相当金額一億三二三〇万五八三三円に達するまでは、原告の本事業年度の益金の額に算入されない。

キ 所得の金額 二億九九〇五万八八三七円

右金額は、前記アの金額に前記イないしオの金額を加算し、前記カの金額を減算した金額である。

(2) 法人税額の計算について

法人税額 一億〇八七二万七八〇〇円

右金額は、次のアの法人税の額にイの金額を加算した金額から、法人税法六八条及び六九条に規定する所得税額一一三八万六二三九円及び外国税額三万五二一六円を控除した金額(国税通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下、法人税額の計算において同じ。)である。

ア 所得の金額に対する法人税の額 一億一八二四万八五四〇円

右金額は、前記キの所得の金額(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下、所得金額の計算において同じ。)に法人税法六六条に定める税率を乗じて計算した金額である。

イ 課税留保金額に対する税額 一九〇万〇八〇〇円

右金額は、所得の金額の異動に伴い再計算した原告の平成二年度の課税留保金額一九〇〇万八〇〇〇円に法人税法六七条に定める税率を乗じて計算した金額である。

(3) 過少申

告加算税額の計算について過少申告加算税額 九九二万五〇〇〇円

右金額は、前記(2)の法人税額(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下、過少申告加算税額の計算の基礎となる法人税額の計算において同じ。)をもとに、国税通則法六五条一項及び二項の規定に基づき計算された額である。

(4) 重加算税について

重加算税 三六万〇五〇〇円

右金額は、前記(1)エが仮装経理であり国税通則法六八条一項に該当することから、同項の規定に基づき、過少申告加算税に代えて、更正処分により納付すべきこととなった法人税額(一〇三万円)に一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した金額である。

(5) 以上のとおり、原告の平成二年度の所得の金額及び法人税額は別表四の「更正・賦課決定」欄記載のとおりであるから、平成二年度の更正等は適法である。

(二) 平成三年度の更正等の適法性

(1) 所得金額の計算について

ア 申告所得金額 九八五万五五六七円

右金額は、原告が平成三年七月三一日付けで被告に提出した原告の平成三年度の法人税の確定申告書に記載されていた所得の金額である。

イ 減価償却費のうち損金の額に算入されない金額 二億三一九八万〇九八六円

右金額は、原告が平成三年度の法人税の確定申告において減価償却費として損金経理した金額のうち、本件減価償却費として計上したものであるが、前記(一)(1)イのとおり、本件映画フィルムの所有権は、ハレーには帰属しないものであるから、本件減価償却費を原告の本事業年度の損金の額に算入することはできない。

ウ 支払利息のうち損金の額に算入されない金額又は受取利息の計上漏れ金額 二八九二万六二〇八円

右金額は、原告が、平成三年度の法人税の確定申告において支払利息として損金の額に算入した金額のうち、本件支払利息又は本件支払利息に対応する受取利息であるが、前記(一)(1)ウのとおり、本件借入金の支払利息を原告の本事業年度の損金の額に算入することはできず、又は本件支払利息に相当する額の受取利息が発生するというべきである。

エ 従業員給与のうち損金の額に算入されない金額 一四〇〇万円

右金額は、原告が平成三年度の法人税の確定申告において従業員給与として損金の額に算入した金額のうち、前記(一)(1)エの「ザ・ダイナミックゴルフ倶楽部」のゴルフ場新設のための地元対策費として支出したとする金員であるが、支出先は明らかでなく、また、従業員給与として仮装経理されていたものであるから、損金の額に算入されないものである。

オ 本件配給収入の益金不算入金額 五六万円

右金額は、原告が平成三年度の法人税の確定申告において益金の額に算入した金額のうち、本件配給収入の額であるが、前記(一)(1)カのとおり、原告の本事業年度の益金の額に算入されないものである。

カ 寄付金の損金算入額 五一万八四〇〇円

右金額は、所得金額の異動に伴い寄付金の損金算入額の再計算をしたところ損金の額に算入されるべき金額となったものである。

キ 事業税の損金算入額 二三六四万二四〇〇円

右金額は、平成三年度の更正の所得金額をもとに、地方税法七二条の二二に規定する標準税率(以下「標準税率」という。)を適用して再計算した事業税の増加額である。

ク 所得の金額 二億六〇〇四万一九六一円

右金額は、前記アの金額に前記イないしエの金額を加算し、前記オないしキの金額を減算した金額である。

(2) 法人税額の計算について

法人税額 五八〇九万三五〇〇円

右金額は、次のアの法人税の額にイの金額を加算した金額から、法人税法六八条及び六九条に規定する所得税額四一三三万四一一八円及び外国税額三万三三八六円を控除した金額である。

ア 所得の金額に対する法人税の額 九六七五万五三七五円

右金額は、前記クの所得の金額に法人税法六六条に定める税率を乗じて計算した金額である。

イ 課税留保金額に対する税額 二七〇万五七〇〇円

右金額は、所得の金額の異動に伴い再計算した原告の平成三年度の課税留保金額二七〇五万七〇〇〇円に法人税法六七条に定める税率を乗じて計算した金額である。

(3) 過少申告加算税額の計算について

過少申告加算税額 一三五四万三五〇〇円

右金額は、前記(2)の法人税額をもとに、国税通則法六五条一項及び二項の規定に基づき計算された額である。

(4) 重加算税について

重加算税 一八三万七五〇〇円

右金額は、前記(1)エが仮装経理であり国税通則法六八条一項に該当することから、同項の規定に基づき、過少申告加算税に代えて、更正により納付すべきこととなった法人税額(五二五万円)に一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した金額である。

(5) 以上のとおり、原告の平成三年度の所得の金額及び法人税額は別表五の「再更正・変更決定」欄記載のとおりであるから、平成三年度の更正等は適法である。

(三) 平成四年度の更正等の適法性

(1) 所得金額の計算について

ア 修正申告に係る欠損金額 三九九五万九四五六円

右金額は、原告が平成四年一二月一一日付けで被告に提出した原告の平成四年度の法人税の修正申告書に記載された欠損金額である。

イ 減価償却費のうち損金の額に算入されない金額 七三三〇万五九九二円

右金額は、原告が平成四年度の法人税の確定申告において減価償却費として損金経理した金額のうち、本件減価償却費として計上したものであるが、前記(一)(1)イのとおり、本件減価償却費を原告の本事業年度の損金の額に算入することはできないというべきである。

ウ 支払利息のうち損金の額に算入されない金額又は受取利息の計上漏れ金額 三一〇一万一〇一九円

右金額は、原告が、平成四年度の法人税の確定申告において支払利息として損金の額に算入した金額のうち、本件支払利息又は本件支払利息に対応する受取利息であるが、前記(一)(1)ウのとおり、本件支払利息を原告の本事業年度の損金の額に算入することはできず、又は本件支払利息に相当する額の受取利息が発生するというべきである。

エ 本件配給収入の益金不算入金額 五四八六万六〇一三円

右金額は、原告が平成四年度の法人税の確定申告において益金の額に算入した金額のうち、本件配給収入の額であるが、前記(一)(1)カのとおり、右は、原告の本事業年度の益金の額に算入されないものである。

オ 事業税の損金算入額 三〇〇二万二三〇〇円

右金額は、平成四年度の更正の所得金額をもとに、標準税率を適用して再計算した事業税の増加額である。

ク 欠損金額 二〇五三万〇七五八円

右金額は、前記アの金額に前記イ及びウの金額を加算し、前記エ及びオの金額を減算した金額である。

(2) 以上のとおり、原告の平成四年度の欠損金額は別表六の「更正・賦課決定」欄記載のとおりであるから、平成四年度の更正は適法である。

4 結論

以上によれば、本件各事業年度においてハレーが本件映画フィルムを取得した事実はないから、本件映画フィルムは法人税法三一条一項所定の原告の減価償却資産に当たるものではなく、原告は本件減価償却費を損金の額に算入することはできないし、また、ハレーが本件金員を借り入れたと認めることもできないから、本件支払利息を損金の額に算入することを通じて所得金額ないし法人税額を減少させることはできず、本件各更正処分等はいずれも適法である。

(原告の主張)

1 法的根拠の不存在

被告は、租税法の適用に当たっては、納税者が選択した法律行為の外観ないし形式に拘束されることなく、その法律行為によって当事者が真に企図した法的実質ないし実体(社会的、経済的意図ないし目的)に立ち入って課税要件事実の認定を行い、取引の実質ないし実体に則した課税がなされるべきである(実質課税の原則)と主張する。

しかしながら、憲法は、二九条において国民の私的財産権を認めると同時に、租税が私的財産の公的侵害であることから三〇条及び八四条において租税法律主義を定め、経済生活の法的安定性と予測可能性の必要性を強調している。

したがって、実質課税の原則は、立法段階において行政庁ではなく立法府によって考慮されるべきものであり、法の施行(解釈・適用)段階では租税法律主義の枠組みの中で適用されるにとどまる。このことは、実質課税の原則を適用する個別規定は存在する(法人税法一三二条等)にもかかわらず一般的な否認規定が存在しないこと、また、昭和三六年の税制調査会による国税通則法の制定答申で実質課税の原則の一般規定と租税回避行為の一般的規定を設けるべきであると答申されたにもかかわらず未だに立法化されていないことからも明らかである。

被告は、本件取引に基づいて法律上確定している当事者の権利義務の現実の状態について、そのとおりに解釈せずに、あえて多様な解釈のうちの一つを選択し、これを経済的実質と呼ぶのであるが、これを根拠として課税するためには、特定の法的実体に対する課税を可能ならしめるようなみなし規定が必要であると解すべきである。

そして、現行の税法ではそのような規定は存在しないばかりでなく、かえって、法人税法は、同法二二条三項二号が権利確定主義を規定していることからも明らかなように、経済的実質ではなく法律上確定している権利義務の現実の状態を重視しているのである。

したがって、本件各更正処分等は、法的根拠に基づかないものであるから違法である。

2 事実認定の誤り

被告は、本件取引には法的実質ないし実体が存在しないとして本件各更正処分等をしているのであるが、このような事実認定は以下のとおり誤りである。

(一) 被告は、本件取引に法的実質ないし実体がないことの根拠を、本件金員の現実の移動がないことに求めている。

しかし、本件取引においては、すべての当事者が適法に各契約を締結したことにより生じた法的実体に従って、当初より意図したとおりに取引が行われており、その結果として、現実に金員の移転が行われ、ただ、権利の移転、相殺ないし交互計算が行われた結果、定められたときに定められただけの金員が移動したにすぎないのである。

(二) また、被告は、本件映画フィルムの実質的所有者はIFDであるとしている。しかし、所有者であるというためには、目的物の使用、収益、処分の権能がすべて帰属していなければならないところ、IFDは、本件配給契約によって本件映画フィルムの使用権を有してはいるが、契約期間満了後であっても最低七億七三一四万六二五〇円という高額な対価を支払ってクラスAオプションを行使してはじめて処分権(譲渡権)を取得するのであるから、処分権がIFDに帰属しているということはできず、IFDを実質的にも本件映画フィルムの所有者ということはできない。

被告は、本件映画フィルムの所有者であれば、当然有してしかるべき権利をすべて譲渡したとしているが、原告にとっては、本件映画フィルムを賃貸し、収益を得ることがハレー加入の目的であるから、賃貸収入を収受する権利が最も重要であり、その権利はハレーにおいて完全に保持されているのであるから、被告の主張は当たらない。

(三) さらに、被告は、本件取引が租税回避のみを目的としてなされたものであるとするが、本件取引は、リース取引の一形態であるレバレッジドリース取引である。

すなわち、レバレッジドリース(Leveraged Lease)とは、当事者として少なくともリース物件の貸手(レッサー・lessor)、借手(レッシー・lessee)及び貸手に融資する資金提供者の三者からなり、貸手がリース物件の取得価額の二〇パーセントから三〇パーセント程度の自己資金及び資金提供者からその残額についての借入金を調達してリース物件を購入し、これを借手に貸し付けることによりリース料を受け取ることを要件とするものであると解され、これにより貸手がリース物件の所有者として有形固定資産であるその物件の減価償却費と資金提供者からの借入金の利子との合計額を費用すなわち損金となすことができ、リース料の設定の仕方いかんにより大きく節税することが可能となるものであるが、本件取引は、貸手をハレー、借手をIFD、資金提供者をオランダ銀行とし、貸手の自己資金は約二五パーセントであるから、レバレッジドリースの要件を完全に充たしている。

そして、レバレッジドリースは、世界中で広く一般的に行われている取引であり、仮装行為でも租税回避行為でもなく、経済的に合理性を有する取引なのである。

したがって、本件取引が、いかにも特殊であり、不合理な経済的取引であるかのようにいう被告の事実認識は誤りであるといわざるを得ない。

3 法人税法、商法との整合性

(一) 法人税法二二条四項は、益金と損金の計上について、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとすると定めている。

ここでいう公正妥当な会計基準とは、企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から一般に公正妥当と認められたものをいうのであるが、本件取引のような賃貸借取引ないしリース取引を売買取引ないし金融取引とする会計慣行は未だ存していないし、そのような公正妥当な会計基準も存在しない。

したがって、本件取引をもって売買取引ないし金融取引とみて益金及び損金を計上することは法人税法二二条四項に違反する。

(二) また、法人税法七四条は、内国法人の申告書の内容について、確定した決算に基づいてなすべきこと(確定決算主義)を定めている。

ここでいう確定した決算に基づくということは、株主総会等において承認を得ることにより商法上確定した決算に基づくことを意味しており、法人税法は、これを前提として同法上の課税所得の計算を行うことを強制しているのである。

そして、商法三二条一項は、積極財産である自己所有の資産と消極財産である負債を会計帳簿と貸借対照表に計上することを強制し、さらに、同法三四条二号は、会社の営業上の積極財産である固定資産について減価償却を行うことを強制するのであるが、同法三二条二項は商業帳簿の作成に関する規定の解釈については公正な会計慣行を斟酌すべき旨を定めているところ、会社がレバレッジドリース取引により賃貸している固定資産については会社の固定資産として処理するのが公正なる会計慣行であることは周知のところであるから、原告は、商法上、本件映画フィルムにつき固定資産として、その減価償却費を計上しなければならないのであり、これをしないことは商法に違反することとなる。

(三) さらに、原告が所有する賃貸財産である固定資産とその減価償却費の計上は適法であるから、その固定資産を取得するために調達した資金の借入金は原告の負債であり、これを負債に計上することは適法であり、かえって、これを原告の負債から除外することは、商法三二条一項に違反することになる。

(四) 以上のように、被告は、原告が法人税法及び商法上適法に資産計上等しているものについて否認しているのであるから、本件各更正処分等は違法である。

4 事実認定の矛盾・変遷

本件取引の事実認定については、被告の本件各更正処分等における理由、国税不服審判所の裁決における理由、被告の本件口頭弁論における主張相互間に矛盾があり、一貫していない。

このように、本件取引について多様な解釈が成り立ち得るような状態で、しかも不確定で流動的かつ矛盾に満ちた事実の解釈に基づいて課税することは違法である。

5 本件各更正処分等について

(一) 平成二年度の更正について

(1) 被告の主張3(一)(1)中、ア、エ、オは認めるが、その余の主張は争う。

(2) 同(2)ないし(5)の主張は争う。

(二) 平成三年度の更正について

(1) 被告の主張3(二)(1)中、ア、エは認めるが、その余の主張は争う。

(2) 同(2)ないし(5)の主張は争う。

(三) 平成四年度の更正について

(1) 被告の主張3(三)(1)中、アは認めるが、その余の主張は争う。

(2) 同(2)の主張は争う。

第三当裁判所の判断

一  本件は、原告が、本件売買契約によりジェネシスから買い受けた本件映画フィルムが、ハレーの組合員らに共有的に帰属する減価償却資産に当たるとして、本件減価償却費を損金に計上するとともに、右購入代金に充てた借入金についての本件支払利息を損金に算入したのに対し、被告が本件映画フィルムの購入に関する契約(本件売買契約)及び右購入代金の借入れに関する契約(本件融資契約)は、法的な実質を伴わない単なる契約書の作成行為にすぎず、本件取引の実質は、原告らハレーの組合員とされる投資家が行った出資金を投資額とし、本件映画フィルムに係る興行収入の一部を分配金とする金融取引、すなわち、本件利益配当契約にほかならないとして、本件減価償却費及び本件支払利息の損金算入等を否認したものである。

ところで、課税は、私法上の行為によって現実に発生している経済効果に則してされるものであるから、第一次的には私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として、これに従って行われるべきことはいうまでもないが、このことは、課税の前提となる私法上の当事者の意思を、いかなる場合でも常に当事者のなした取引の表面的・外形的な意味のみによって判断すべきことを意味するものではない。すなわち、ある私法上の法律効果の存否を判断する際に、単に、当事者間で行われた法律行為の形式・外観によってのみ法律要件事実を認定するのではなく、法律行為を行った当事者の合理的な意思解釈を前提として法律要件事実の認定がなされるのと同様、租税法上の課税要件事実の認定においても、その経済取引の実態を考慮した実質的な合意内容を意思解釈した上で、その真に意図しているところに従って私法上の事実関係を認定し、これを前提とした法律構成によって課税要件へのあてはめを行うべきである。

そして、このような合理的な意思解釈によって当事者の選択した私法上の行為の形式とは異なる課税要件事実が認定される場合には、当然、右事実に従い課税をなし得るのであって、あえてその旨を定めた規定を要しないし、そのように解したとしても租税法律主義に違反するものではない。

この点に関し、原告は、原告の主張1のとおり、取引の実質ないし実体を根拠として課税するためには、特定の法的実体に対する課税を可能ならしめるようなみなし規定が必要であり、これを欠くにもかかわらず課税をなすことは憲法三〇条、八四条の租税法律主義に違反する旨主張するが、採用し難い。

二  本件取引の内容等

そこで、本件取引の内容等について検討するに、前記第二の一の前提となる事実に加えて、証拠(甲二の1ないし3、三の1、2、四の1ないし3、五、七、八、九の1、2、一二の1ないし4、一三、一八の1、2、一九の1ないし3、二〇、二三、二四の1ないし4、乙一ないし五、八ないし一〇、一三、一五の1、2、一六の1、2、二〇の1、2、二一の1、2、二二の1、2、二三の1、2、二四の1、2、二八の1、2、二九の1、2、三〇の1、2、三一の1ないし3、三五の1、2、証人a、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  本件取引に係る諸契約の締結

原告は、平成二年ころ、当時メリルリンチの社員であったaから、本件説明書に基づいて本件映画フィルムに投資することを勧誘され、本件取引に参加することを決意し、同年三月一九日までに、本件組合契約書、組合規約書及び管理委託契約書に記名押印するとともに、MLFEとの管理委託契約の締結により、MLFEに対し本件取引に関する契約締結の代理権を与え、これに基づき、MLFEは、本件取引に関連する以下の諸契約を締結した。

2  関連諸契約の具体的内容

(一) ハレー結成に係る契約書

ハレーの結成に係る基本的な契約書としては、「ハレー映画投資事業組合組合契約」と題する契約書(乙一、以下、その内容を「本件組合契約」という。)及びその付属書類である「組合規約」と題する書面(乙二)があり、平成二年三月一九日付けで、原告ほか一三社が記名押印している。これらの内容は、おおむね次のとおりである。

(1) ハレーは、本件組合契約及びこれと一体となる組合規約に準拠するものとし、日本国民法の規定に基づく民法上の組合である。

(2) ハレーの目的は、本件映画フィルムを購入し、本件映画フィルムを世界中で、すべての媒体を通じて商業的に利用することにある。このため、ハレーは、本件映画フィルムを購入する契約(本件売買契約)、本件映画フィルムについての配給者を任命する契約(本件配給契約)及びその他の関連諸契約を、それぞれ締結するものとする。

(3) ハレーは、オランダ銀行から五七億四六八七万五〇〇〇円(約三七五〇万USドル相当円)の融資を受け、本件映画フィルム購入のため、七七億三一四六万二五〇〇円(五〇四五万USドル相当円)の支払をする。

(4) 各組合員は、本件組合契約に基づく出資金(本件出資金)を、平成二年三月一九日午後一時までに、オランダ銀行のハレー名義の当座預金口座あてに送金することによって払い込むものとする。なお、本件出資金の出資総額は二二億九八七五万円であり、各組合員は、これを一五口に分割した一口分に当たる一億五三二五万円以上を出資する。

(5) 各組合員は、アメリカ合衆国デラウェア州法人で日本国内に恒久的施設を置かないMLFEとの間で、管理委託契約を締結することに同意する。右管理委託契約に基づき、MLFEは、ハレーの業務執行者となり、各組合員は、ハレーの存続中は、右管理委託契約による業務執行者の任命の取消しをしないことに同意する。

(二) 本件売買契約

ハレーは、ジェネシスとの間で、平成二年三月一九日付けで本件売買契約を締結したが、その売買代金は、七七億三一四六万二五〇〇円であり、ジェネシスは、ハレーに対し、次のことを保証するとされている。

(1) ハレーは、本件映画フィルムに関し、①その世界中における著作権、②そのオリジナル・ネガティブ、③本件映画フィルム又はその部分が化体されている他の有体物及びその関連権利(題名の指定権、本件映画フィルムの編集権その他)に対するジェネシスの完全な権利を得ること。

(2) 右の関連権利は、ハレーとIFDとの間の本件配給契約において、ハレーがIFDに与えるべきすべての権利を与えることを可能とするすべての権利を含んでいること。

(3) 適切な品質及び企画、一定の上映時間並びにアメリカ合衆国での上映上の一定のレーティング取得の蓋然性等を有すること。

(4) 著作権等上の問題がないこと。

(5) 試写等を除き上映されたことがないこと。

(三) 本件融資契約等

オランダ銀行とハレーとの間の本件映画フィルム購入代金の融資に係る契約には、平成二年三月一九日付けで締結された、本件融資契約(Loan Agreement)と、それに伴う債権譲渡担保契約及び口座質権設定契約があり、これらの内容は、おおむね次のとおりである。

(1) ハレーは、本件借入金がジェネシスから本件映画フィルムを購入するためにのみ使用され、他の目的のためには使用されないことに同意する。

(2) 本件借入金の元本額は、五七億四六八七万五〇〇〇円である。

(3) 利息は月複利七・二パーセントとし、延滞利息は、右利率に年率二パーセントを加えた利率とする。

(4) 元利金の支払は、返済日(原則として七年後)に一括して行うが、前払金及びネット支払額を受領したときは、直ちにこれに相当する金額をオランダ銀行に支払わなければならない。同銀行は、これを受領した時点で返済があったものとする。

(5) 政策等によりオランダ銀行のコストが増加した場合、やむを得ないときには、ハレーは増加コストを支払わなければならないことなどがある。

(6) IFD及びその承継人等が、本件オプション権を行使した場合、ハレーは、固定支払額が本件オプション契約に基づき支払われる日において、借入金のすべての残額を、期日前に返済に伴う何らかの損失金とともに支払うことを要求される。

(7) ハレーは、オランダ銀行に口座Aと口座Bの二口の預金口座を設定し、IFD又はHBU銀行からの支払のすべてを右預金口座に入金するとともに、オランダ銀行に対し、右二口の預金口座に質権を設定する。

(8) ハレーは、本件配給契約及び本件オプション契約に基づき、IFDから受領するすべての権利及びその全金額、本件保証契約に基づいてHBU銀行がした保証に関するすべての権利及びこれらに代替するものを本件融資契約に係る債務の担保として、オランダ銀行に譲渡する。

(四) 本件配給契約

ハレーとIFDとの間の本件配給契約の内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 本件配給契約上、「当初期間」とは、契約締結日以後七年間をいい、「延長期間」とは、ハレーが延長オプションを行使した場合のその後の七年間をいい、「期間」とは、その両者をいう。

(2) ハレーは、IFDに対し、次のことを保証する。

ア 適切な品質及び企画、一定の上映時間並びにアメリカ合衆国での上映中の一定のレーティング取得の蓋然性を有すること

イ 著作権等上の問題がないこと

ウ 試写等を除き上映されたことがないこと

エ 本件配給契約によりIFDに与えられる権利は、IFDの本件映画フィルムに関するいかなる債務不履行、違反又は契約の変更若しくは終了等によっても、終了、変更、その他の不利な影響を受けず、ハレーは、本件配給契約の期間中、右契約の改正、変更、終了等をせず、本契約の規定によるIFDのいかなる権利もその不利益に変更、終了、解除等をされることがないこと

オ ハレー又はその組合員は、本件映画フィルムに関する権利又は権益を、IFDに与えられた権利に悪影響を与えるようには、いかなる者にも、売却、譲渡等しないこと

(3) IFDは、本件配給契約の期間中、本件映画フィルム及びその予告編、カット版、縮小編を上映し、配給し、販売し、広告し、利用するための、また、第三者にその上映、配給、販売、広告、利用をさせる許諾を与えるための著作権及びその他の唯一で、かつ、独占的な権利及び次の権利を単独かつ排他的に与えられる。

ア 題名の選択、変更等

イ IFDの裁量により、本件映画フィルム又はオリジナル・ネガティブその他の本件映画フィルムが化体されている有体物等をカットし、編集し、追加し又は削除すること

ウ IFDの選択するラボラトリー等に本件映画フィルムに関するポジティブプリント、ビデオテープ、ディスクその他を作成させること

エ 本件映画フィルムの広告、プロモート等をすること

なお、ハレーは、IFDの事前の同意なく、本件映画フィルムに関する広告等をすることはできない。

オ IFDは、本件配給契約の期間を通じ、その供与の時点における慣習に従い、同期間を超える期間にわたる本件映画フィルムの公開の権利を第三者に与えることができ、当該第三者の権利は本契約の期間終了によって影響されないこと

(4) IFDは、ハレーの負担で作成されたネガティブ等を除き、本件映画フィルムのすべてのプリント及びフィルムを破棄することができる。

(5) IFDは、本件配給契約上の地位又は右契約によるいかなる権利をも、その裁量と選択によりサブ配給者に譲渡し又は許諾することができる。ハレー及びIFDは、本件配給契約中に明示されている場合を除き、他方の当事者の事前の書面による同意なくして、その権利を譲渡することはできない。

(6) 本件映画フィルムの引渡しに関し、本件映画フィルムの制作がなお続行中の場合には、ハレーは、本件映画フィルムの化体された有体物をすべて現状のままで引き渡すこととし、IFDはその裁量により、これらをカットし、編集し、追加し、削除する等の権限を有する。

(7) ハレーは、ラボラトリーに対し、次の内容の指示書を発出する。

ア 現在、また、今後ラボラトリーにハレーの名において預託されている本件映画フィルムに関するポジティブプリント、本件映画フィルムが化体された有体物(以下「化体物件」という。)に関し、ラボラトリーは、以後一九九七年三月までの期間(ただし、本件配給契約の定めにより期間が延長された場合は、延長期間を含む。)は、IFDの指示を実行すること

イ すべての役務等の対価は、IFDのみが支払うこと

ウ 前記アの期間中、IFDの書面による同意なくして、いかなる化体物件も、ラボラトリーから移動させられることなく、いかなる物も、化体物件から制作されず、ハレーその他の者に引き渡されないこと

エ 現在ラボラトリーに預託されているすべての化体物件又は将来ラボラトリーによって制作される物は、IFDの指示のみによって移動させられ又は引き渡されること

オ 本件映画フィルム又は化体物件の編集、カット、追加又は削除の権利はIFDのみが有し、他の者は、ハレーを含め、IFDの事前の書面による同意なくして右のいかなる権利も有しないこと

カ この指示は撤回不能であり、IFDの書面による指示なくしていかなる変更又は修正もされないこと

(8) 本件配給契約に基づくIFDの権利を証明し、維持し、有効化し又は保護するために必要かつ適切な文書をIFDが要求した場合には、ハレーはいつでもその要求を実施しなければならず、ハレーが実施しないときには、IFDがハレーの代理人としてそれらの書類を作成することのできる権原をハレーはここにIFDに与える。

(9) IFDは、本件映画フィルムに関し、IFDまたはハレーの権利の侵害に対し、ハレー又は自己の名で必要又は適当と認める手段を取ることができ、この点に関し、ハレーは、撤回不能の代理権をIFDに与え、そのため、ハレーは代理権証書をIFDに与える。

(10) IFDが本件配給契約に違反したときのハレーの権利及び救済は、損失の回復に限られ、ハレーは、右契約を終了させ、IFDの本件映画フィルムに関する権利、権原を取り消し又は本件映画フィルムの配給もしくは上映等を規制し若しくは制限することを含むすべての普通法上又はエクイティ上の権利又は救済を放棄し、また、IFDが本件配給契約に基づくハレーへの支払をしなくとも、本件映画フィルムに関するIFDの権利が終了、キャンセル又は制限等されることはなく、このような場合におけるハレーの唯一の救済は金銭上の損失の回復を求める法律上の措置である。

(11) IFDは、ハレーに対し、前記第二の一2(二)(5)の本件配給料を、本件配給契約書の添付資料に記載された金額と日に従って、日本円で支払う。

本件配給契約に基づくIFDの支払義務は、ハレーとIFDとの間で締結された本件オプション契約に基づくクラスAオプションの行使により、本件オプション契約に規定する範囲でのみ自動的に消滅する。

ハレーに対するIFDの支払債務である保証支払額は、いかなる理由によって本件配給契約が終了しても存続するものとする。本件配給契約の他の条項に反対のものがあるか否かにかかわらず、保証支払額は、いかなる理由があろうとも、IFDによって、支払停止、支払延期、相殺等を行うことなく全額が支払われなければならない。

(12) IFDがクラスAオプションを行使しなかった場合、ハレーは、前記第二の一2(二)(6)の内容の延長オプションを有する。

(13) IFDがクラスAオプションを行使せず、ハレーが延長オプションを行使しなかった場合、本件配給契約は第二オプション期間終了の日に終了する。

(14) 本件配給契約又はその関連契約が失効し又は終了しても

、本件配給契約によりIFDに与えられ又は与えられることが合意された本件映画フィルムに関する権利、権原等は影響を受けず、ハレーの保証は右契約の失効又は終了にかかわらず効力を有する。

(五) 本件オプション契約

ハレーとIFDとの間の本件オプション契約の内容は、おおむね次のとおりである。

(1) ハレー及びその各組合員は、本件映画フィルムに関するハレー等のすべての権利、権原及び権益を取得する撤回不能な権利及びオプション(クラスAオプション)をIFDに与えることに同意し、ハレーの各組合員はハレーにおける各組合員のすべての権利、権原及び権益を取得する撤回不能な権利及びオプション(クラスBオプション)をIFDに与えることに同意した。その具体的内容及び行使方法は前記第二の一2(二)(6)のとおりである。

(2) クラスAオプションの行使により本件配給契約が終了しても、同契約に基づく次の金員の支払については、IFDは、支払義務を免れず、同契約により支払うべき時点において支払わなければならない。

ア 本件配給契約による支払日と同じ日に次の金員を支払う。

① グロス支払額

② ネット支払額

③ 保証支払額

イ 当初期間の終了日から九〇日以内に次の①又は②の金額のうちいずれか多い金額を支払う。

① 次の合計額

i 固定支払額(前記第二の一2(二)(6)の延長前払金と同額)

ii 当初期間終了後一〇年後までの間(前記ア①によりグロス支払額が支払われている間を除く)のグロス支払額の支払の見積額の現在価値

iii 配給料金の償還

② 当初期間終了後一〇年後までの間のネット支払額の支払の見積額の現在価値

(六) ハレー等とIFDとの担保契約

平成二年三月一九日付けで、ハレー及びその組合員とIFDとの間で締結されたオプション担保契約並びにハレーとIFDとの間で締結された配給担保契約の内容は、おおむね次のとおりである。

(1) ハレー及び各組合員は、契約による義務の完全な履行を担保するため、その権利につき、IFDにオプション担保契約により第一順位、配給担保契約により(ただしハレーのみ)第二順位の担保、譲渡及び移転等をする。

(2) 担保物件は、本件映画フィルムから派生する著作権、本件映画フィルムのオリジナルネガティブ及びその他の化体物件に対するハレーのすべての権利、権限及び権益であり、各組合員にあってはその組合員としての権益である。

(3) ハレーは、IFDの事前の書面による同意なく、担保物件又はこれに関する権利の担保提供、譲渡、引渡し等をしてはならず、IFDは、本契約に基づく権利、担保物件又はこれに関する権利につき、ハレーの事前の書面による同意なく、第三者に対し担保提供、譲渡、引渡し等をすることができる。

(七) 本件保証契約

平成二年三月一九日付けで、ハレーとHBU銀行との間で締結された保証契約(以下「本件保証契約」という。)の内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 本件保証契約は、ハレーが、IFDに対し、信用補完措置を求め、IFDがHBU銀行にかかる措置を求めたことにより、締結されたものである。

(2) HBU銀行は、ハレーに対し、IFDの前払金、ネット支払額及び保証支払額相当額の支払を保証し、IFDがその支払をしなかった場合には、本来支払われる方法及び通貨で支払う。

ただし、右金額の現在価値が最低保証額の現在価値を、月複利七・二パーセントで計算したところを超えない範囲とする。

(3) 支払は、円貨により、オランダ銀行のハレー口座に支払われる。

(八) 本件著作権譲渡担保契約

平成二年三月一九日付けで、ハレーの各組合員とIFDとの間で締結された著作権譲渡担保契約(以下「本件著作権譲渡担保契約」という。)の内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 各組合員は、IFDに対し、本日、IFDに対する本件オプション契約に基づく一切の債務の履行等を担保するため、本件映画フィルムの著作権を譲渡した。

(2) 本契約は、前記(六)のオプション担保契約に基づき締結されたものである。

3  本件各契約の履行状況等

(一) ハレーにおける本件取引に係る入出金状況(本件借入金の関係を除く。)

(1) 原告は、平成二年三月一六日、オランダ銀行宛に、本件出資金の原告出資分として一億五三二五万円を振り込んだ。また、同年三月一九日までに、原告以外の出資者も同様に出資金を拠出した。ハレーに対する各組合員の出資金の合計は二二億九八七五万円であった。

(2) IFDからハレーに対し、グロス支払額として、ハレーのオランダ銀行の口座Bに入金された金員の合計額は一四億四〇九四万六一五四円であり、ハレーが受領したグロス支払額及び本件映画フィルムの売却残代金から原告が受領した分配金の合計は九九九九万一四二四円であり、また、右分配金に加えて、出資金の払い戻しなどで原告がハレーから受領した金員の合計は一億〇六一五万五八二四円であった。

(3) IFDからハレーに対し支払われた金員のうち、ハレーの口座Aに入金されたことが明らかなものは以下のとおりである。

平成三年七月四日ころ、IFDからハレーの口座Aに対し、前払金として一五六〇万円が振り込まれ、同金員は全額オランダ銀行に対する本件借入金の返済に充当された。

平成七年八月ころ、IFDからハレーの口座Aに対し、ネット支払額として二億八三〇七万〇五二七円が振り込まれ、同日、同金員は全額オランダ銀行に対する本件借入金の返済に充当された。

平成八年七月三一日、IFDからハレーの口座Aに対し、ネット支払額として一億四七七四万八〇一八円が振り込まれ、同金員は全額オランダ銀行に対する本件借入金の返済に充当された。

平成九年三月一八日、IFDからハレーの銀行口座に対し、本件映画フィルムの売却代金(オプション行使価格)として七億七三一四万六二五〇円が、また、保証支払額として八二億二六〇四万三七四三円がそれぞれ振り込まれ、同日、右金額の合計である八九億九九一八万九九九三円がオランダ銀行に対する本件借入金の一括返済金として充当された。

以上の結果、ハレーがIFDから受領した前払金、ネット支払額、保証支払額及びオプション行使価格の合計は九四億四五六〇万八五三八円であり、その全額がオランダ銀行に対する本件借入金の返済に充当された。

(二) 著作権の移転

「ハリウッドに口づけ」及び「フラットライナーズ」の著作権は、いずれも、右各著作物が最初に公表された際(平成二年九月一二日)に表示された著作者名はCPIIであったが、平成三年七月一六日付けで、ジェネシスからハレーの各組合員に対する平成二年三月一九日(本件各契約の締結日)の著作権の譲渡を原因とする登録がなされ、また、右登録日付けで、右各組合員からIFDに対する平成二年三月一九日の譲渡担保設定契約を原因とする著作権譲渡の登録がなされた。

三  本件取引の合意内容

そこで、前記二で認定した事実に基づき、以下に本件取引の実質的な合意内容及びその課税上の評価について検討する。

1  本件融資契約について

(一) 本件融資契約によれば、ハレーは、オランダ銀行から五七億四六八七万五〇〇〇円を借り入れることとされているところ、右借入金の使途はハレーがジェネシスから本件映画フィルムを購入することのみに限定され、返済は、原則として右元金に月複利による年率七・二パーセント(月複利七・二パーセント)の利息を付して、返済日(契約から七年後)に一括して行うものとされている。

ところで、本件配給契約及び本件オプション契約によれば、IFDは、ハレーに対し、基本的に前払金、グロス支払額、ネット支払額を支払うものとされているが、ネット支払額については、契約締結から七年後の決済日において最低保証額(八七億二五五〇万九一三一円)の支払が保証されており、右決済日までにIFDからハレーに対し支払われた前払金とネット支払額等の合計が右の最低保証額に満たない場合は、IFDはその差額を保証支払額として支払わなければならないとされているのであるから、ハレーが受領するネット支払額は最低保証額以上の額ということとなる。なお、本件配給契約は、クラスAオプションの行使により、決済日以前に終了することがあり得るが、その場合であっても、グロス支払額、ネット支払額及び保証支払額の支払義務については本件配給契約が終了しても存続するとされ、本件配給契約による支払日と同じ日に支払われるものとされている。そして、右の前払金、ネット支払額及び保証支払額の支払については、最低保証額の限度で本件保証契約によりHBU銀行が保証するものとされている。

また、本件配給契約及び本件オプション契約によれば、本件配給契約が期間の満了により終了した場合には、IFDからハレーに対し、延長前払金として七億七三一四万六二五〇円が支払われ、IFDがクラスAオプションを行使した場合にも固定支払額として同額が支払われることとなる。一方、IFDがクラスAオプションを行使せず、ハレーが延長オプションを行使しなかった場合には、本件配給契約は第二オプション期間の満了により終了することとなるが、第二オプション期間において本件映画フィルムの有する価値、すなわち本件映画フィルムの収益の見通しが延長前払金ないしクラスAオプションを行使した場合の固定支払額を超えるのであれば、IFDとしては理由のいかんを問わずに行使できるクラスAオプションを選択することとなるし、逆に右時点において本件映画フィルムの有する価値がこれを下回るのであれば、ハレーとしては当然延長オプションを行使することとなるのであるから、結局、右各オプションのいずれも行使されないという事態は考えられず、本件配給契約及び本件オプション契約においても、オプション権不行使の場合にハレーが本件映画フィルムをいかなる手段、方法により利用、配給等を行うか等、オプション権不行使の場合の具体的運用に関する条項は全く存在しない。

(二) そうすると、本件配給契約及び本件オプション契約においては、本件映画フィルムの興行成績、収益の見通し等のいかんにかかわらず、IFDからハレーに対し、最低保証額八七億二五五〇万九一三一円に延長前払金又は固定支払額としての七億七三一四万六二五〇円を加えた九四億九八六五万五三八一円(最低支払確定額)が支払われることが確実に予定されていたというべきであるし、右最低保証額については、HBU銀行の支払保証があったことは前述のとおりである。

そして、本件融資契約に基づきハレーがオランダ銀行に対して弁済しなければならない元利金の合計は九四億九八七三万六九六一円(元金五七億四六八七万五〇〇〇円と利息三七億五一八六万一九六一円の合計額)であり、最低支払確定額合計額九四億九八六五万五三八一円とほぼ一致するから、ハレーは本件融資契約に基づく債務の弁済のための原資については、そのほぼ全額についてIFDからのネット支払額及びオプションの行使による支払額によってまかなうことができるとされていたものであるし、右弁済原資の大半については、HBU銀行の支払保証がなされていたのであるから、弁済に関するリスクの負担もほとんどなかった。なお、右の利息は月複利七・二パーセントで計算されたものであるから、前払金やネット支払額が決済日前にハレーの銀行口座に入金され、これが本件融資契約に基づく債務の元本に充当された場合には、最終的にハレーが返済しなければならないとされる元利金の合計は九四億九八七三万六九六一円を下回ることとなる。

(三) 証拠(乙二八ないし三〇の各1、2、三一の1ないし3、証人b)及び弁論の全趣旨によれば、オランダ銀行東京支店がハレーに融資した本件金員の返済額(本件借入金)については、HBU銀行が本件借入金に相当する金員をオランダ銀行本店に預託ないし信託することによって、その全額につき支払を保証していたこと、また、HBU銀行は、IFDのハレーに対する債務を最低保証額の限度で引き受けており、その引当てとしてIFDから、少なくとも引受債務額に相当する金額の預託ないし信託を受けていたところ、これがHBU銀行からオランダ銀行に対する預託ないし信託金の全部又は一部となっていたことがそれぞれ推認され、前記(二)のように、ハレーが本件借入金の弁済についてのリスクをほとんど負担していないのは、本件借入金について、右のような形で返済が確保される措置が講じられていたことによるものである。なお、HBU銀行の本件保証契約に基づくハレーへの支払保証額は最低保証額の限度にとどまっているけれども、右のようにHBU銀行がオランダ銀行との間では本件借入金全額の支払を保証していたと推認されることからすれば、ハレーが本件借入金の返済について負担するリスクは実際上はほとんど零に近かったと考えられる。

また、前記第二の一の前提となる事実及び前記二の認定事実並びに弁論の全趣旨によれば、右に関連する本件取引の特質として、本件融資契約において、ハレーはオランダ銀行から本件金員(本件借入金元本)を借り入れたとされるが、それは直ちに本件売買代金の一部(約七五パーセント)としてジェネシスに支払われ、ジェネシスはこれを本件映画フィルムの制作又は買取会社であるCPIIに支払うものとされていたこと、そして、CPIIは、右貸借及び売買と同日付で締結されたIFDとのサブ配給契約により、本件金員に相当する額を直ちにIFDに支払い、IFDはこれを前記のようにHBU銀行に預託ないし信託するというように、本件取引においては、本件金員が、右関係者間を循環するような取引構造が取られていたことが認められる。

(四) そして、本件では、実際にも本件借入金についてハレー自身が弁済の責を負うことなく、IFDからハレーに対し支払われた前払金、ネット支払額、保証支払額及びオプション行使価格としてハレーのオランダ銀行の口座Aに入金された前記二3(一)(二)の合計九四億四五六〇万八五三八円がオランダ銀行に対する本件借入金の返済に充当され、これによって本件借入金は完済されたと認められる。

(五) 以上の諸点にかんがみると、本件取引において、ハレーの本件融資契約に係るオランダ銀行に対する債務の弁済については、もっぱらIFD(ないしHBU銀行)とオランダ銀行間で決済されることが予定されており、ハレー自身の出捐はほとんど予定されておらず、ハレーには本件借入金の返済に伴うリスクはほとんどなかったと考えられるし、前記(三)のような本件金員の流れ等からしても、本件融資契約は通常の金銭の消費貸借とはかなり形態を異にするものであって、右契約の契約書上の借主はハレーとなっているけれども、右契約に関係する当事者の意思を合理的に解釈した場合に、ハレーが本件借入金債務を負担していたといえるか極めて疑問である。

2  本件映画フィルムに係る権利関係の移動について

(一) 本件配給契約によれば、ハレー又はその組合員は、本件映画フィルムに関する権利又は権益を、いかなる者にも、IFDの権利に悪影響を与えるような形で売却及び譲渡等をすることができないこととされているのに対し、IFDは、ハレーとの関係においては、サブ配給会社へIFDの地位及び権利の譲渡を行うことにより、本件配給契約上の地位及び権利を自由に第三者に譲渡することができるとされる。

また、IFDは、本件映画フィルムの配給、広告、題名の選択及び変更、本件映画フィルムの化体されたフィルムのカット及び編集ができ、自らの選択するラボラトリーに本件映画フィルムに関するポジティブプリントその他を作成させることができるとされ、右ラボラトリーからはIFDの指示によってのみ本件映画フィルムの移動又は引渡しができるのみならず、IFDのみが本件映画フィルムをすべて廃棄することができるのに対し、ハレーは、IFDの同意なしには、本件映画フィルムにつき右のような処分をなすことはできないとされる。

そして、本件配給契約によりIFDに与えられる右のような権限は取消ないし撤回不能とされており、同契約によりその当初の契約期間(本件配給契約成立日から七年間)においてIFDが取得した右権利は、本件配給契約の失効又はIFDの契約不履行等によっても何ら影響を受けず、また、このような場合、ハレーを救済するための手段として契約を解除することはできず、ハレーとしては金銭上の損失の回復を求めることしかできないとされる。

(二) また、本件オプション契約によれば、IFDは、クラスAオプション及びクラスBオプションを取消不能の権利として保持しており、ハレーとの関係では、第二オプション期間中は理由のいかんを問わずいつでも、また、第一オプション期間においては、ハレーにおいて本件オプション契約の実行によるIFDの本件映画フィルムのすべての権利、権原及び権益の取得を危うくするおそれがあるとIFDが認めたときにはいつの時点においても、クラスAオプションを行使して本件映画フィルムの法形式上の所有権を取得することができ、また、各組合員との関係では、本件オプション契約の実行によるIFDの本件映画フィルムに係るすべての権利、権原及び権益の取得を危うくするおそれがあると認められる場合、第一オプション期間及び第二オプション期間中のいつの時点においてもクラスBオプションを行使できるとされる。

(三) さらに、本件著作権譲渡担保契約によれば、ハレー及び各組合員は、IFDに対し、本件各契約の締結と同時に、本件映画フィルムの著作権を譲渡担保に供するものとされる。

そして、実際に、本件映画フィルムである「ハリウッドに口づけ」及び「フラットライナーズ」の著作権は、いずれも、右各著作物が最初に公表された際(平成二年九月一二日)に表示された著作者名はCPIIであったが、平成三年七月一六日付けで、ジェネシスからハレーの各組合員に対する平成二年三月一九日(本件各契約の締結日)の著作権の譲渡を原因とする登録がなされ、また、右登録日付けで、右各組合員からIFDに対する平成二年三月一九日の譲渡担保設定契約を原因とする著作権譲渡の登録がなされている。

(四) 以上の諸点にかんがみると、ハレーは本件売買契約により本件映画フィルムの所有権を取得するとされるものの、それと同時に、ハレーの本件映画フィルムに係る諸権利の行使を制約する各契約が締結される結果、本件映画フィルムを管理、処分する権限としてハレーに留保されるものは実質的に零に等しくなるのであり、所有権者が通常有すべき本件映画フィルムに対する管理処分権は、本件各契約の締結と同時に、実質的にはIFDに移転しているということができ、本件売買契約も通常の売買契約とはかなり形態を異にするものであって、右契約の契約書上の買主はハレーとなっているけれども、右契約に関係する当事者の意思を合理的に解釈した場合に、ハレーが本件売買契約により本件映画フィルムの所有権を取得したといえるか多大な疑問がある。

3  CPIIの本件取引への関与とその目的

前記第二の一の前提となる事実及び前記二の認定事実並びに弁論の全趣旨によれば、本件映画フィルムの売買代金七七億三一四六万二五〇〇円の約七五パーセントに相当する五七億四六八七万五〇〇〇円についてはオランダ銀行からの本件金員が充てられているところ、本件借入金はCPIIの関連会社であると推認されるIFDが実質的にその返済の責任を負担しているのであるから、CPIIは、右売買代金の残り約二五パーセントの資金を調達できれば、みずから本件映画フィルムの制作から配給までを行うことができたと考えられる。

それにもかかわらず、CPIIがあえてハレーに本件映画フィルムを売却し、ハレーを介して本件映画フィルムの配給を行うとの本件取引に加わった目的は、右の約二五パーセントの資金を調達するためであったと考えられるが、証拠(乙六、七、二七)及び弁論の全趣旨によれば、アメリカ合衆国の映画業界における利益参加型投資に対する分配利益の計算では、配給収入から、配給手数料、配給費用及び俳優、監督への支払等が控除されるため、たとえ映画がヒットしたとしても、投資による利益分配は期待しがたいものとなっており、このような状況の中で、海外の市場から投資資金を調達するには、右投資によって、映画のヒットによる興業利益の分配以外の何らかの利益が生じうる可能性を示唆して投資家を勧誘する必要があったと考えられる。右利益が、本件では映画投資に関する日本の税法に起因する課税上の優遇措置(減価償却費及び支払利息の損金計上)であったことは明らかである。

4  原告の本件取引への関与とその目的について

証拠(原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、ゴルフの練習場等の経営を目的とする会社であって、本件取引以前には映画の制作、配給等に関与した事実はないものと認められるほか、原告は、組合員は映画興行の相対的成功度によって決まる受領金額と課税上の優遇措置とによって投資収益を得ることができる旨の記載のある本件説明書に基づく説明を受けてハレーに参加することを決定したこと、本件取引に関する各契約書は、本件組合契約書及び組合規約などのごく一部のものを除きいずれも英文のものしかなく、しかも本件各契約のうち本件組合契約及びMLFEとの管理委託契約等を除く契約の締結は、そのほとんどが本件組合の業務執行者であるMLFEによってなされていること、さらに、原告代表者の供述によっても、原告において出資の対象となった本件映画フィルムの内容や本件各契約の履行状況等について明確に把握していたとは認め難いことなどからすると、結局のところ、原告は、本件各契約等の内容及び実態を詳細に検討、把握することなく、映画興行による利益(もっとも、これについては、前記のとおり、非常に不確実なものであるから、原告において、これに多くを期待していたとは考えられない。)と減価償却費の損金計上等によって生ずる課税上の利益を得ることを目的として本件取引に参加したものであり、ハレーを通して本件映画フィルムを所有し、その使用収益等を行う意思は有していなかったものと推認するのが相当である。

5  まとめ

以上のとおり、本件取引において、ハレーは、表面的・外形的には、本件融資契約及び本件売買契約の当事者とされ、本件金員をオランダ銀行から融資を受け、本件出資金と合わせてそれを本件映画フィルムの購入資金に充て、本件映画フィルムの所有権を取得し、それを本件配給契約に基づいてIFDに賃貸したとの契約書上の形式・外観が存在するけれども、本件取引の全体の内容を実質的に観察し、また、本件取引に加わった関係当事者の意図、目的を合理的に解釈すれば、本件取引の実態は、本件出資金を投資額とし、本件映画フィルムに係る興行収入の一部を分配金とする金融取引、すなわち、ハレーがCPIIに対し各組合員の出資金から投資し、これに対してCPIIが利益配当を行うことを内容とする契約(本件利益配当契約)であり、本件融資契約及び本件売買契約は、前記のような課税上の優遇措置を得るために、右契約に形式上組み込まれたものにすぎないと認められる。

したがって、少なくとも租税法上の課税要件事実の認定及び法律構成の上では、本件融資契約及び本件売買契約について、その契約書記載の法律関係が存在するとは認め難く、右各契約は、その法的実質を備えていないというべきである。

6  原告の主張について

原告は、本件取引においては、本件各契約が適法に締結、履行され、金員及び権利の現実的な移動があるのであるから、本件取引に法的実質がないとの被告の主張は誤りである旨主張するが、本件取引の当事者らが、本件各契約を適法に締結し、その各契約書記載の権利義務をそれぞれ履行することは当然のことであり、そのことと本件融資契約及び本件売買契約が、租税法上の観点からみて法的実質を有するか否かは全く別の問題であるし、このような観点から見た場合、ハレーが実際に本件金員を借り入れ、また本件映画フィルムに係る諸権利を現実に取得したと認め難いことは前述のとおりである。

なお、原告は、本件取引は、リース取引の一形態であるレバレッジドリース取引であり、経済的に合理性を有する取引であると主張するが、前記三2のとおり、本件映画フィルムに係る諸権利はハレーからIFDに移転していたと認められるのであるから、これをもってリース取引ということができないことは明らかである。

また、原告は、本件各更正処分等は、法人税法及び商法上適法になされた会計処理を否認するものであるとも主張するが、前述のとおり、本件取引については、原告が主張するような金員及び権利の移動自体が租税法上認められないのであるから、この点に関する原告の主張は前提を欠くといわざるを得ない。

さらに、原告は、本件取引の事実認定については、被告の本件各更正処分等における理由、国税不服審判所の裁決における理由、被告の本件口頭弁論における主張の相互に矛盾があり、一貫しておらず、このような不確定で流動的な事実の解釈に基づいて課税することは違法であると主張するが、被告と国税不服審判所は別個の機関であるから、その間で本件取引の事実認定に差異があったとしても必ずしも矛盾とはいえないし、また、被告の本件各更正処分等における理由と本件口頭弁論における主張に多少の食い違いや変遷があったとしても、そのことだけで本件取引について前記のような事実認定や法律評価をすることができなくなるものではないから、この点に関する原告の主張も理由がない。

四  本件各更正処分等の適法性について

1  被告がなした本件各更正処分等の内容は前記第二の二(被告の主張)3のとおりである。

2  原告は、前記第二の一3及び別表四ないし六のとおり、本件各事業年度における申告所得金額の計算に当たり、ハレーが平成二年三月一九日に七七億三一四六万二五〇〇円で取得した本件映画フィルムのうち、原告のハレーに対する出資割合に応じた額の減価償却費として、平成二年五月期は一億七六二七万七三四四円を、平成三年五月期は二億三一九八万〇九八六円を、平成四年五月期は七三三〇万五九九二円をそれぞれ損金の額に算入しているが、前述のとおり、本件取引は、その実質において、原告がハレーを通じ、CPIIによる本件映画フィルムの興行に対する投資を行ったものであって、ハレーないしその組合員である原告は、本件取引により本件映画フィルムに関する所有権その他の権利を真実取得したものではないというべきであるから、本件映画フィルムを減価償却資産に当たるとして、その減価償却費(本件減価償却費)を損金の額に算入することはできないというべきである。

3  また、原告は、本件各事業年度における申告所得金額の計算に当たり、本件融資契約に基づきハレーがオランダ銀行から借入れた融資金五七億四六八七万五〇〇〇円についての支払利息のうち、原告のハレーに対する出資割合に応じた額を支払利息として、平成二年五月期に五五四万一八五九円を、平成三年五月期に二八九二万六二〇八円を、平成四年五月期に三一〇一万一〇一九円をそれぞれ損金に算入しているが、前記三で述べたとおり、オランダ銀行に対する本件借入金の元利金の返済については、ハレーは、IFD又はHBU銀行からほぼその全額に相当する金員の支払いを受けることができることとされているのであるから、右借入利息に相当する金額を受取利息として益金の額に算入すべきものである。

4  他方、原告は、本件各事業年度における申告所得金額の計算に当たり、本件配給契約に基づきハレーがIFDから収受した本件配給料のうち、原告のハレーに対する出資割合に応じた額を配給収入として、平成二年五月期は四八万円を、平成三年五月期は五六万円を、平成四年五月期は五四八六万六〇一三円をそれぞれ益金に算入しているのであるが、右の配給収入のうち、前払金、ネット支払額、保証支払額及び本件オプション権あるいは延長オプションの行使によりハレーが収受する額からなる部分については、IFDが引き受けた本件借入金の返済であるから、原告の本件各事業年度の益金の額には算入されない。また、右配給収入のうち、グロス支払額からなる部分については、前記三のとおり、本件映画フィルムに対する投資の配当分配金と認められるから、ハレーの本件映画フィルムに対する投資の配当分配請求権一九億八四五八万七五〇〇円(本件映画フィルムの売買代金七七億三一四六万二五〇〇円からハレーのオランダ銀行からの借入金五七億四六八七万五〇〇〇円を差し引いた額)に係る原告持分(一五分の一)相当金額一億三二三〇万五八三三円に達するまでは、原告の本件各事業年度の益金の額に算入されないことになるから、結局、前記各金員を益金に算入することはできないというべきである。

5  前記第二の二(被告の主張)3(一)(1)ア、エ及びオ並びに3(二)(1)ア及びエ並びに3(三)(1)アについては、いずれも当事者間に争いがない。

6  以上によれば、本件各事業年度における原告の所得金額、法人税額、過少申告加算税額及び重加算税額は前記第二の二(被告の主張)3のとおりとなるから、本件各更正処分等は適法である。

第四結論

以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 及川憲夫 裁判官 瀬木比呂志 裁判官 澁谷勝海)

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